【ネタバレあり】ドライブ・マイ・カー感想 再生と救済のテーマに心が打たれる

先日、アカデミー賞も受賞した超話題作、『ドライブ・マイ・カー』を鑑賞しました。

賛否両論あるようですが、自分は結構好きな作品でしたね。以下、感想を書いていこうと思います。

ドライブ・マイ・カーあらすじ

舞台演出家の家福の妻、音はセックスの後に脚本の草案を語るようになる。音はそれを覚えておらず、次の日に家福が音の脚本を話、それを音が脚本に仕上げる、という生活を送っていた。この日は、山賀という少年の家に忍び込む少女の話だった。

あるとき家福は音の浮気現場を目撃してしまう。しかし、それを見なかったことにし、普段の生活を続ける。そんな中、妻は急遽くも膜下出血によって他界してしまう。

2年後、家福は広島の国際演劇祭に招待され、戯曲『ワーニャ伯父さん』の演出を手掛けることに。そこでは過去に車の事故によって演劇が上演できなかったことがあったため、専任の運転手が代行する規定になっていた。そこで紹介されたドライバーがみさきだった。みさきの運転はていねいで素晴らしく、家福とみさきは徐々に言葉を交わすようになる。

出演者の一人である高槻は、亡き妻・音とも親交があり、家福も知らない山賀の少女の物語の結末を家福に語る。それは、悪事の咎められなかった少女の絶望の物語だった。

舞台の準備が進んでいく中、出演者の高槻が盗撮に激昂し相手を殴り殺してしまい、降板となる。第約として家福が演じることを迫られるが、数日時間がほしいと家福は言い、みさきの生まれ故郷である北海道へとみさきの運転で向かう。

土砂崩れの下にあるみさきの生家を前に、みさきは母親への想いを語る。それを聞いた家福は、妻への対応の後悔と贖罪の言葉を口にする。

その後家福は『ワーニャ伯父さん』を見事に演じ上げ、「わたしたちは生きていきましょう」という戯曲の深いメッセージとともに大団円を迎える。

時が過ぎ、みさきは韓国に渡り、家福の愛車に乗って生活をしていた。

ドライブ・マイ・カー 感想

まず、非常に高尚な雰囲気がすごかったですね。エンタメ的な作品ではなく、在りし日のフランス映画のような淡々とした映像が3時間に渡って続くので、ここは好みが分かれるポイントだと思います。

しかし、登場人物のセリフも多く、どんどんと話が展開していくので、退屈になるシーンはそこまでなかったです。3時間ありましたが結構退屈せずに見ることができました。

この映画の読後感を良くしているのは、ラストにかけて前向きなメッセージが前面に出てくるところですね。過去に囚われている家福・みさきの両人が、過去を胸に抱えつつも前向きに生きていく選択が描かれていて、深い感動がありました。

演出も良かったです。2人の心境が『ワーニャ伯父さん』のストーリーとリンクしており、ひどいめにあったワーニャに対して、ソーニャが「生きていきましょう」と語りかけるラストが、そのまま2人の心境に当てはまるものだったと思います。

この、「別の物語とのリンク」という演出は、音の山賀の家に忍び込んだ少女の話にも体現されていて、そこもメタフォリカルで非常にうまいと思いましたね。自分が山賀を殺したのになにも咎を受けない少女は絶望の中で生きることになるのですが、それは物語中盤までの家福とみさきの心境とリンクしているように感じられました。

少女の話を語った音と高槻は亡くなってしまい、『ワーニャ伯父さん』の世界とリンクした家福とみさきは、希望を見つけて生きていく……。きっとそういう対比があるんだろうなと思います。家福は、ワーニャ伯父さんを演じるのは当初嫌がってましたしね。みさきとの出会わなかったら、彼もまた絶望とともに生きていくことになっていたんだと思います。

物語をメタファーとした演出、希望のあるラスト、この2要素が自分の中でグッときたポイントでした。いや、いい映画を観たと思います。

ドライブ・マイ・カー ラストの考察

さて、ラストシーンはいろいろ物議を醸しているので、自分の予想を書いておきます。

これまでに語ったとおり、みさきは希望を見つけて新しい生活をするために韓国に渡ったのでしょう。

家福の車に乗っているのは、みさきが家福とリンクしたことと、家福が過去と決別したメタファーでもあると思います。

主催者の韓国人夫婦が飼っていた犬が後部座席になぜいたのか、というところでいくと……これも、一度絶望した妻がチェーホフの演劇に挑戦する、という彼らのストーリーとリンクしたからなんじゃないかなと思います。なぜ韓国なのか、というのも同じ理由かなと。ちょっと観念的な理屈になってしまいますが、現実的な辻褄を合わせるように考えるよりも、メタファーであることを主軸に考える方が納得度が高いと自分は感じます。おとぎ話のような話ですからね。

というわけで、久々にこれぞ映画!っていう感じの映画を観た気がします。わかりやすくテンションが上がるのだけが映画じゃないですからね。深い感動を誘う素敵な映画でした。おすすめです。

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